
千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第29章 アダム鋼
第1話 任命
パトモス・ハウスでの、メイ女王とヤオの謁見にて──
「あなたは『千年王国法』をどれだけ知っていますか?」
メイの尋ね方は、「あなたは千年王国法をほとんど知りませんね?」と聞いたのと変わらなかった。ヤオは女王の栄光が少女であることから、さらにはアミュテュスが言葉を喋るとしたらメイ女王のような物腰であるだろうという淡い想起から、必要以上に愛しげな眼差しを送ってしまいそうだった。城で一番大きい謁見の間から見える、青い空と青い海を背にした女王もまた、蒼くありながら、瞳も、ドレスも、景色の延長線上にない色をしていた。
「年一回の、礼拝の掟……も、それに入るのでしょうか」
「この度の件では、フェリックス三冠に懲罰が下されることになりました」
メイは静かに、しかしきっぱりと言った。ヤオは瞬きをした。
「懲罰? 功績があるのでは?」
「三年間の、ヰェナダー謹慎です。その間フェリツに帰れず、執政権は凍結となります。彼のような人を何もさせないわけには行かないから、ヰェナダー議員の秘書でもさせられるんでしょうね」
「秘書! どうして、そのようなことに」
「これでも、三冠の成果と、咎を差し引いてのことです。やむを得ぬ事情が重なりましたが、王体を損ねることが、看過されませんでした」
「メイ殿下を、焼かれた……」
「私よりかは、自分についてですね。これで二回目のはずですから」
ヤオは、フェリツ城でフェリックスが菌魂転送に失敗し、儚したことを思い出した。イツダテの件はともかく、もっと前の出来事が論点になっているのだ。
「三冠のふるまいには、手を焼く議員も多いのです。彼は復元後、議会の承認を待たずに無理やりフェリツに戻ったでしょう……菌根転送で。ツァヴァヰェ領内での、転送術はひんしゅくをかいます。なんだかんだ難癖がつき、三年分、懲役のほうが、はみ出てしまいました」
「殿下は、三年、ヰェナダーを出られない……」
「これは他言禁止です。新聞にも載らないでしょう。三冠は何かと、報道の餌になりやすいので……民にも人気がありますし……。表向きは、今回の件の後片付けが多いと言うので、のらりくらりと、世論をやりすごすでしょう。彼が在位中じゃないのが、不幸中の幸いでしょうね」
たしかに、ヰェナダー議会から怒りを買って謹慎になったというのと、王国の召命のために帰国できないというのでは、フェリツの人々の受け取り方だって、天と地ほども違うだろう。フェリックスの名誉が守られただけでも、寛大な処置と言えるのかもしれない。
ヤオが俯くので、女王は朗らかに言った。
「まあ、フェリックス三冠は、けろりとして羽を伸ばしていますよ。ヰェナダーの人たちからしたら、あまりうろちょろして欲しくないんでしょうけど」
ヤオは、女王に気を使わせてしまったので、また背筋を伸ばして頷いた。
「それで、あなたに、三冠からの指令を告げます」
フェリックス王から僕に、と聞いて、青年は露骨に顔を明るくした。女王は顔に表すよりは、胸の中で微笑した。
「公式にはフェリツ現令主のルツと、ツユリ名義で、後日、正式な書面を授与いたしますが。あなたは、フェリツの戦士として、パトモス島に留まり、イツダテ、ヰェナダーの隊と共に、海域と島内の警備を命じます。最高責任者としては、府長の指令、および上官の指示に従って動くように」
「え……わ……」
兵としての仕事は十年以上先になると覚悟していた。いきなり本格的な指令が来たのだ。
「フェリックス三冠は戦士としてあなたを任命し、剣を授けたと聞きました。剣はいま、どこに?」
「しまってあります」
「これよりは、常に、帯刀を命じます。忠実に励むように」
女王は少女らしからぬ毅然とした眼差しで命じた。
つづく






