千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第29章 アダム鋼
第2話 相思
ヤオはフェリックス王から、というよりはフェリツから、もっと言えばこの作戦を指揮するツァヴァヰェ、フェリツ、イツダテ、その他有志の連合部隊から、パトモス島と近海の警備隊に加えられた。
正式な辞令は年明けからとされ、ギョエテとプリスカにはヤオの延びた滞在のため、部屋を借り続ける代金の打ち合わせのために、先んじて知らされた。
両親とウィスターは、ヤオとアミュテュスが一緒に出かけ、アミュテュスがヤオの靴を借り、ヤオを裸足で歩かせて、さも仲良さそうに帰ってきたのを見て、事情は通じ合っているものと思っていた。
両人は今まさに仲を深めつつあり、日の浅い、異国の恋人同士の繊細な期間を、皆が遠巻きに見守っていた。アミュテュスはロー・ジとの婚姻関係の解消を願っていたが、手続きがどれほどかかるか、わかりようがない。周りがはやし立てるほど、二人は燃え上って突っ走ってしまうかもしれないし、逆に破局となれば、アミュテュスが今度こそ壊れてしまうかもしれない。
ウィスターの帰国が慌ただしく決まったのもあり、全てのタイミングが織り合わさって、アミュテュスはヤオが島に残ることを知らなかったのだった。
送別の臥、ヤオがひっぱりだこだったのは、ツァヴァヰェからの派遣団に、フェリックスがヤオの武勇伝を十倍増しに吹聴したからと、ヤオが終わりの日に聖都を守る陣営に加わる意志を決めているという美談によって、隊員たちにヤオは大いに受け入れられたのであった。
そのかいあってか、ヤオはさっそく、警備隊の中に友達を作ったようだった。臥回りのときなどは、友達と連れ立って行けるようだ。あんなに苦しんでいた曇りの日の暗い臥でさえ、むしろ嬉々として出かけていこうとし、アミュテュスがランタンを持って二人で出かけたいと誘うのを、たまに少し、どちらの約束を優先させるか迷うそぶりを見せた。結局はアミュテュスを選んでくれるのだが。
ヤオにとって今日ばかりはというときは、約束を作らないうちに、誰の前からも姿をくらませて、どこかへ行ってしまうのだった。
ヤオは生来の手先の器用さとまじめさで、あっという間にポンパドーター船を操れるようになった。知り合いに船を借りては、アミュテュスを乗せて近海に出た。風や波と付き合うのが、森の樹々と付き合うのと同じで、ただ車を走らせるよりも好きなようだった。
一方で、フェリツの森では珍しい植物や、海岸沿いの多肉植物を採取しては、延命するよう丁寧に包み、船便のタイミングを待って、せっせと演習林に送った。彼に届く手紙もしばしばあった。
アミュテュスには、ウィスターほどあっけらかんと付き合ってくれる友人はいなかった。幼い頃に城に入り、音楽の天才であり、こころも広さより深さが勝っていた。気位が高いと思われるのを、違うとは言い切れず、撤回する努力をしなかった。不幸も祝福も多く、ヤオという、異国の男を掴まえたことで、なおさら、周囲からの畏怖が積み上がったようだった。
ヤオは、これまでの人生の習慣と、戦士としての習慣と、アミュテュスとの三点をくるくる巡りながら、逆を言えば、これ以外は右にも左にも逸れずに、島での生活を身につけていった。たまに書き物をしているが、手紙の延長線だろう。
アミュテュスは、徐々に長く起きていられるようになり、音楽に集中できるようになり、ホテルのテラスで演奏したり、パトモス・ハウスでのパーティに呼ばれたり、音楽仲間に誘われて酒場で演奏をしているうちに、ヤオが迎えにきて、町を散歩して帰る、という繰り返しの中で、自分を取り戻して行った。
千年王国紀889年に入り、6月のアミュテュスの誕生日に、ヤオは、故郷から五色柳の苗を取り寄せ、ホテルの敷地の一角に植えた。10月の彼の誕生日には、アミュテュスはヤオの短剣の装飾をしたイツダテ職人を、フェリックス王に手紙を送って探し出し、似たモチーフを用いて錨ともやい、その他海を思わせるもので装丁された青いノートと銀の万年筆をプレゼントした。
ほとんど友達の延長のような恋人同士で、手を繋いだり、互いにもたれたりという以上のことはなかった。
歳月はそのようにして過ぎて行った。
つづく






