千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第20章 イツダテの王は誇り高い
第2話 孤高
「それで、なんらかの理由があって、あなたはウィスターと、ヤオと行動を共にしていた、ということだね」
ツユリ王が尋ねた。
アミュテュスはフェリックス王を、補足して欲しいと言うように、臆することなく睨みつけた。
「アミュテュスは、ヰェナダーに向かう途上だった。ウィスターとヤオは、出国の手伝いをしようとしてた」
「ヰェナダーに?」
「目的はわからんが、ヰェナダーにわざわざ、悪巧みを持っていく奴はいない。何かの証拠物件として、サリーの──ヤオの妹の頭の中に埋め込まれていた機器を持ち去ろうとした、とかじゃないのかな」
フェリックスはアミュテュスを流し見した。女は小さく頷いた。
「まあ、もしかしたら、あの最先端技術を渡したくなかったのかもしれん。我々になんぞ」
アミュテュスは頷きを止めて、喋れないのをいいことに、あることないこと付け足してくる王を見返した。双方が睨み合うので、ツユリはいっそう穏やかに言う。
「わからない、なぜ、あなたは、私たちから逃げようとしているのか」
「イツダテから、私が徹底的に嫌われているとかかな」
アミュテュスは、顎をすこし上げた。
「アミュテュス、あなたは、あの機器がなんなのか、知っているのか」
女は首を横に振った。ツユリは残念そうに少し首を下げた。機器については話せないという意味かもしれない。読み取れない歯痒さがつのる。しかし、これについてはあくまで枝葉だ。
「わかった。本題に戻らせてくれ。私は、あなたのものと思われるポンパドーターと、貴重品一式を預かっている。これは間違いなくあなたに返すから、安心してほしい。対策本部にある。あとで持って来させる」
相手は素直に、見開いた目を期待できらきらとさせた。
「失礼ながら、中は一通り改めさせてもらった。あなたはイツダテ人アミュテュスということで、間違いはないね」
アミュテュスはしっかり頷いた。ツユリは一息ついた。
「身分証はイツダテ王宮発行で、あなたの現住所はイツダテ城内とあり、身元保証人はメイ女王となっていた」
ここで、フェリックスは「わお」と言った。まだ、アミュテュスが言葉を喋らない幼子、ウクレレを抱えている。くらいの情報しかなかったのだから。
「あなたはイツダテ王宮の関係者ということでいいかな」
アミュテュスはじっと動かなかったが、ツユリは身分証の記載を信頼して、話を進めることにした。
「イツダテ王宮の方であるあなたが、なぜ、フェリツにいて、賊にいのちを狙われているのか?」
アミュテュスはあの臥の恐怖を思い出して唇を噛んだ。つられるように、ツユリも不安げになった。
「イツダテの王宮は今、相当に混乱しているのか。私たちもとても、心配している」
アミュテュスは抱えていたウクレレをさらに強く抱きしめた。王たちはその仕草を、秘密をなお硬く仕舞い込もうとするものに見えた。実際は、彼女が殻を破ろうとする時の、最後の抵抗なのだった。
ツユリはため息をつき、できることはここまでかと、フェリックスに助けを求める眼差しを送った。フェリックスは、さて、柔和、丁重、温厚の三拍子が揃ったツユリに説得できないならば、どう切り出そうかと思案した。
その時、ウクレレが鳴り出した。忘れ去られた物語が立ち上がるような、古い民謡調の音楽だった。一粒一粒の音色が際立つようで、つながり合い、重なり合い、とても一本のウクレレから鳴っているとは思えない豊かさだった。さらには、王たちはその曲を知っていた。
──輝くもの全て、黄金だと信じている婦人がいた
──天国への階段を買うために
アミュテュスは演奏をふと止めた。フェリックスが旋律にあわせて歌ったからだった。
「なんだ。弾いている時は、歌うんじゃないのか」
アミュテュスはどうにも調子を狂わせてくる王への対抗心を燻らせていたが、実に十日ぶりに、魂の声を取り戻し、声の方もアミュテュスを忘れずにいてくれたので、幸せであった。取り戻した力に、賜物の秘密を打ち明ける勇気を得、奏でた。
{イツダテの王は、誇り高い}
つづく






