
千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第20章 イツダテの王は誇り高い
第1話 沈黙
ツユリはフェリックスと共に、レヘム村長の家に続く集会所に、イツダテ人アミュテュスを連れて行った。そこは汚染調査団の詰め所、休憩所となっていた。ダイモニゾマイBも、頭部に埋め込まれた機器の取り出しのため、ウィスター医師の指揮のもと、集会所の別室に運び込まれた。
ヤオは、フェリツ城主の二人と従者たち、とくに森林王フェリックスを突如としてもてなすことになって、てんやわんやの炊き出しに加わることにした。村の祭りに使う大きな厨房は、集会所に併設されていたので、ヤオはなんの差し障りもなく、アミュテュスとフェリックスという二大興味を追いかけることができた。三人が入った談話室の、外に通じる扉の近くに、じゃがいも袋を引っ張ってきて座り込み、皮を剥き始めた。木々のざわめきで中の会話は聞こえなかった。
談話室は、内廊下から入ったところがすぐ石のタイルを敷き詰めた土間になっており、反対側が外への扉に続いていた。土間には簡易的な台所があった。小規模な食事会をする時に使われるのだった。
タイルから切り替わって木の床があり、右手には十人以上がゆうに座れるであろう、巨大な一枚板のテーブルが置いてあり、周りには柳でできたスツールが並べられていた。ヤオの家のバルコニーにあるものと同じであった。
壁際にある窓三枚分に渡って細長いソファが置かれ、ソファ前には等間隔で三つのコーヒーテーブルがあった。これも、柳のスツールをひと回り大きくしたようなもので、天板として円形の板が乗せてあった。窓の外は全面が緑であった。緑を瑞々しく浸す水色の光が部屋の中に注ぎ込んでいた。
窓と反対側の壁には、大きな植物画が三枚並んで掛けてあった。全て同じ画風で水彩であった。画内の植物が走らせる緑の曲線と、何も塗られていない背景の紙の白さが緊張感をせめぎ合っていた。古い絵だが、画用紙はわずかに黄ばみがあるだけで、ガラス板の向こうでまっさらで、室内の清廉さの演出を一手に引き受け、光っていた。
ツユリは防護服を脱いでいたが、普段の僧侶的なローブではなく、麻のシャツと綿のズボン、足にはブーツを履いていた。フェリックスも村人が用意した選り取り見取りの中から紺色の半袖作業つなぎを着て、山用のゴム底ブーツを履いていた。
ツユリはソファをアミュテュスに勧め、フェリックスとは、机側のスツールに腰をかけた。柳を編んだだけの頼りなさを予想してそっと腰掛けたのだったが、スツールはわずかに軋む音をたてただけで、ツユリの尻をぴったりと支えたので、ツユリは一度腰を浮かせ、座っているのが間違いなく小さな椅子であるのを確かめるように、下を覗き込んだ。背もたれがないことをちゃんと確認しないと、くつろいで背中を預けてしまいそうなほど、座り心地がよかったのである。
「さて、まずは情報をちょっと整理させてもらうと、三日前、二十七日だったか、フェリックスがウィスター医院で見つけて、城に同行を願ったという女性は、彼女ということでいいのかな」
ツユリは、逮捕とか連行とかいう物騒なもの言いを避けた。
「そうだな。あの時は、そんなスポーティな格好をしてなかったし、ウクレレを持ってなかったけど」
フェリックスもツユリも、なぜ女が後生大事にウクレレを抱えているのか、わからなかった。
「で、その臥はあまり話もできないうちに、賊の襲撃があり、あなたは一度姿をくらましていた。ウィスターとヤオがあなたを匿っていた、ということでよいのだろうか」
「話ができなかったというか、アミュテュスは話ができない、声がないから」
ツユリはアミュテュスが言葉を喋らないということは口伝えに聞いていたが、極端に口数が少ないだけで、本当に一言も喋ることができないとは思っていなかった。
「そうなのか、アミュテュス」
アミュテュスにしてみれば、口で喋らないということでしかないのだが、聞かれたことに答えればいいとばかりに、頷いた。
「わかった。そういうことで、まずわかった」
ツユリは散らかっている情報を整理するために、その件は前提として受け止めるだけにした。
つづく






