聖書ファンタジー 666 – 反君主の年
フェリックスはしげしげとサバの顔色を見た。
「……何か?」
サバは居心地が悪く、どきどきした。フェリックスと個人的に話したことは数えるほどしかない。異性というのもあるし、各自仕事を持っていて忙しいというのもあるが、一番の原因は、フェリックス王の類稀な美しさにあった。
陶器のような肌、人形細工のように端正な顔立ち、完璧な頭蓋骨の丸み、黒曜石のようにつややかな髪、涼し気でありつつ、情熱を秘めた眼差し、均整のとれた体躯。妖しいまでに美しいとは、フェリックスのためにある言葉だろう。惜しいのは、背がサバよりちょっと高い程度だということ。それにしても、今まさに成長期真っ盛りの青年のような生命力が、王の全身からあふれ出ているのだった。
千年王国の王族たちは、皆【主】によって「栄光の体」を与えられており、一般民衆とは存在感においてかけ離れている。にもかかわらず、並み居る栄光の王たち、女王たちと比べても、フェリックスはとびぬけて美しいとの誉れ高い。近寄りがたく感じてしまうのも無理はない。
そのフェリックスが、サバとの立ち話をだらだらと引き延ばしている。
「ときに、君はどう思うかな。あの、数字のことを」
「どうって……? あの数字って?」
「どうにもこうにも、あのゾロ目が意味深というか、不気味だと思わんかね」
もしかして、話題を666年問題に持っていこうとしているのだろうか。
「宗王……フェリックスがおっしゃるのは、来年のことでしょうか」
「そう。民族によっては、6は“虚無”を示すらしいじゃないか」
「ええ。ただ、旧約の【書物】には、“あの数字”はソロモン王の税収という情報もありますし、国の繁栄という意味でとらえることもできるのでは」
フェリックスは尊敬を込めた眼差しでサバを見つめ返した。アダムさえここまで端正に創られてはないだろうというほど、美しい眼差しだ。痛いほど眩しい。
「さすが。しかし、かの王は、有り余る豊かさによって心を惑わされ、国の滅亡を招いた」
「やはり不吉な数字だと言えないこともないと」
「そう」
どうしてもフェリックスは666年問題について話を煮詰めたいらしい。考えようによっては、数々の局面を経験したフェリックス王に、助言を求めるチャンスかもしれない。
「もし666年になったら……」
サバ女王はぽつりとつぶやいた。
「アビスの封印にちょっとだけ綻びができて、悪霊が染み出してくるっていうのは、あり得るかしら。惨憺期ほどではなくても、心の弱い人たちがそそのかされて、小さな暴動くらいは起こる可能性もある……」
サバはうつむいて続けた。千年王国は【書物】にある通り、千年間続くはずだが、同時に千年で終わるという意味でもある。666年を境に、世が暗くなり、不穏な動きが起きる可能性がないとは言い切れない。なんせ、ちょうど千年の3分の2なのだ。
「そういう記述は、【書物】には一切ない」
フェリックスは首を振った。美しい──ただそれだけで憂いが増し加わる。まるで人一倍有望な学生が目の前にいるような。愛おしさが無条件に高まる。
サバは、麗人と会話をするだけでこころが浮き立つことも手伝って、不安に歯止めがきかなくなってきた。
「【書物】に記述する必要がないくらい、小さなきっかけから終わりが始まるかもしれないでしょ」
低い声で言った。
参照聖句
制作にあたっては、主に『新改訳聖書2017』を参考にしましたが、著作権の関係で、パブリックドメインの口語訳聖書1955年版を掲載いたします。
▶栄光の体(栄化)
ローマ人への手紙 8:29-30
神はあらかじめ知っておられる者たちを、更に御子のかたちに似たものとしようとして、あらかじめ定めて下さった。それは、御子を多くの兄弟の中で長子とならせるためであった。 そして、あらかじめ定めた者たちを更に召し、召した者たちを更に義とし、義とした者たちには、更に栄光を与えて下さったのである。
▶ソロモン王の税収
列王記第一 10:14
さて一年の間にソロモンのところに、はいってきた金の目方は六百六十六タラントであった。
▶千年王国の終わり
ヨハネの黙示録 20:7-8
千年の期間が終ると、サタンはその獄から解放される。 そして、出て行き、地の四方にいる諸国民、すなわちゴグ、マゴグを惑わし、彼らを戦いのために召集する。その数は、海の砂のように多い。







