聖書ファンタジー 666 – 反君主の年
フェリックスがあてがわれた嗣業の地には、他にも多くの王、女王たちがいた。皆で力を合わせ、励まし合いながら復興に努めた。
新たな木々を植え、荒れ果てた土地を耕す。文明の残骸を掘り起こしながら、人間らしい生活を取り戻すことが、当面の活動だった。
聖徒たちや民の中には科学者や職人も多くいて、復興のスピードは予想を超える速さだった。再び立ち上がろうとする人々を、神である【主】が配した、7つの太陽が見守った。
そう、7つ。
まことに古の時代から預言者たちによって語られ、【書物】にしたためられていた現象である。
まことにまことに、元々存在していた太陽に加え、千年王国君主の座す「愛された都」の上空に6つの新たな光源が並べられた。結果、地上は莫大なエネルギーに包まれることとなった。
「主はこんなことをなさって……我々の地球《ほし》は、干し梅のようにくちゃくちゃに干上がってしまわないだろうか?」
フェリックスをはじめ、他の聖徒たち、さらには地球を長年守護してきた天使たちでさえ、壮大かつ大胆すぎる御業に驚きを隠せなかった。しかし、これはご計画のほんの一部にすぎない。
実は、7年の大惨憺時代の間に【主】は地の組成そのものを造り変えておられたのだ。水を血に変え、天を闇で覆う出来事の裏で──すべての覆いが取り払われたとき、地上は7つの太陽に最適化された新しい姿へと生まれ変わっていた!
(混沌から秩序へ……これは、第二の天地創造と言ってよさそうだ。6日で天地をお作りになって、7日目には休まれた全能なる【主】であるから、あくびが出るほどゆっくりと、地球のリノベーションをなさったことだろう)
フェリックスは深く納得し、神をほめ讃えた。
千年王国は、【主】が愛された都を中心として、大小の自治区や国々が次々と誕生していった。土地を潤す豊かな森が広がる中、フェリックスたちもまた、嗣業の地で復興を率いた。
* * *
時は流れ、千年王国紀665年
「ごめんなさい! ……フェリックス宗王」
うつむきがちにフェリツ城内の回廊を歩いていたサバ女王は、ホールにさしかかったとき、フェリックス王と出合い頭にぶつかりそうになった。
「宗王」とは、フェリックスの初代王としての功績をふまえた称号だった。
フェリックスは植樹の重要性を早くから説き、自らも鍬を握って土地を耕した。彼が率いた共同体はやがて規模を拡大し、「フェリツ国」という名の国として認められることになった。王都の名は「フェリシティ」と定められた。フェリックスがこの国の初代最高統治者に選出されたからだった。
フェリックスは、国名が自分の名にちなむことで気後れしつつ、神と民からの期待に応えようと、ますます意欲的に活動した。新しい農法の開発や、他国との連携による大陸横断道路の建設など、多岐にわたる計画を立案し、自ら率先して実行に移した。
「フェリックス、でいいよ。サバ令主」
フェリックスは、サバが現在の最高統治者であるので、うやうやしく礼をした。
「私こそ、サバで結構です」
サバは笑顔で取り繕う。表情はどことなくぎこちない。
千年王国における君主制は独特な仕組みを持っている。一国につき24人の王族が配置され、50年に一度のくじ引きで最高統治者が選ばれる。
フェリックスは、建国後の最初のくじ引きで「運悪く」初代王に選ばれたとぼやくことが多かった。しかし、彼の統治は民に安定をもたらし、次代への礎を築いたのも事実だった。
そこから何百年も経ち、サバ女王が即位したとき、千年王国紀は601年。女王は小柄ながらも活発な人物だ。細かいことにこだわらず、庶民的な不安や懸念には疎かった。
王国が600年紀を迎えた頃、民衆の間では「666年問題」と呼ばれる噂が広がっていた。
666は、呪われた数字として恐れられている。大惨憺時代に世を惑わし、悪逆の限りを尽くした反君主の象徴とされ、そのため、666年には犯罪や暴動が増えるのではないかという懸念が民衆の間で高まっていたのだ。
千年王国を統治する王たちは楽観を持っていた。【主】による守護が揺るぎないものだと確信があったのだ。信仰の揺らぎがちな人々との間ですれ違いが生まれていた。
両者の溝が明らかになると、サバ女王はどう対処するべきか、頭の片隅には置いていたが、優先順位が上がらず、王国紀は、はや665年になっていた。
大衆の不安は引き返せないところまで膨らみつつあった。女王は日に日に心ここにあらずになる。フェリックスは統治者として辛酸をなめた経験がある。サバの心痛を案じていた。
参照聖句
▶荒れ果てた土地を耕す
イザヤ書 2:4
彼はもろもろの国のあいだにさばきを行い、多くの民のために仲裁に立たれる。こうして彼らはそのつるぎを打ちかえて、すきとし、そのやりを打ちかえて、かまとし、国は国にむかって、つるぎをあげず、彼らはもはや戦いのことを学ばない。
ミカ書 4:3-4
彼は多くの民の間をさばき、遠い所まで強い国々のために仲裁される。そこで彼らはつるぎを打ちかえて、すきとし、そのやりを打ちかえて、かまとし、国は国にむかってつるぎをあげず、再び戦いのことを学ばない。 彼らは皆そのぶどうの木の下に座し、そのいちじくの木の下にいる。彼らを恐れさせる者はない。これは万軍の主がその口で語られたことである。
▶七つの太陽
イザヤ書 30:26
さらに主がその民の傷を包み、その打たれた傷をいやされる日には、月の光は日の光のようになり、日の光は七倍となり、七つの日の光のようにになる。
▶天使の守護
詩篇 34:7
主の使は主を恐れる者のまわりに陣をしいて彼らを助けられる。
詩篇 91:9-11
あなたは主を避け所とし、いと高き者をすまいとしたので、 災はあなたに臨まず、悩みはあなたの天幕に近づくことはない。 これは主があなたのために天使たちに命じて、あなたの歩むすべての道であなたを守らせられるからである。
▶愛された都
ヨハネの黙示録 20:9
彼らは地上の広い所に上ってきて、聖徒たちの陣営と愛されていた都とを包囲した。すると、天から火が下ってきて、彼らを焼き尽した。
▶くじ引き
民数記 34:13
モーセはイスラエルの人々に命じて言った、「これはあなたがたが、くじによって継ぐべき地である。主はこれを九つの部族と半部族とに与えよと命じられた。
使徒行伝 1:23-26
そこで一同は、バルサバと呼ばれ、またの名をユストというヨセフと、マッテヤとのふたりを立て、 祈って言った、「すべての人の心をご存じである主よ。このふたりのうちのどちらを選んで、 ユダがこの使徒の職務から落ちて、自分の行くべきところへ行ったそのあとを継がせなさいますか、お示し下さい」。 それから、ふたりのためにくじを引いたところ、マッテヤに当ったので、この人が十一人の使徒たちに加えられることになった。
▶666
ヨハネの黙示録 13:16-18
また、小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、 この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。この刻印は、その獣の名、または、その名の数字のことである。 ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である。
▶反君主(反キリスト)
ヨハネの第一の手紙 2:22
偽り者とは、だれであるか。イエスのキリストであることを否定する者ではないか。父と御子とを否定する者は、反キリストである。







