千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第25章 イツダテ城
第7話 破城
千年王国紀八八八年十月十四日
旧い太陽が昇ると、イツダテの街の門の外には、フェリツの王軍十二名をはじめ、ハタジャ、ヨッパ、ジンニの王軍や、近隣諸国の街の長たちが集結した。王軍を筆頭に、その数は千にのぼった。
イツダテ城下町は、国内での動乱にすでに混乱を極めていたが、連合軍が街々を取り囲む時になって、目の前に明らかになった事態の深刻さに凍りつき、静まった。
イツダテ城下町の長たちに、今回の事変の全貌が知らされたのが、十月に入ってからのことだった。今まで付かず離れずに付き合いをしてきたシーダー社の闇が明らかになり、国境が封鎖され、混乱する人々をなだめすかし、商人や職人たちと日々会合を開き、自分らの家族親族の心配をし、すでに疲労困憊であった。今日に至っては続々と集まる連合国軍を前に震え上がり、互いに互いを励ますようにして街の外に出てきた。
連合軍はいくつもの部隊に分かれ、隊の端の人々が支柱を持って天蓋を支え、隊員はその幌の下にいた。天蓋は各国の国旗で、極彩色の広大なモザイク画がイツダテの平野に広げられたようだった。
王たちは馬に乗っていた。
「愛する兄弟、姉妹たち」
イツダテの街の長のなかの長が進み出て、馬上の王達を見上げ、挨拶をした。
「遠路、よく参られました。この度はこのような事態となり、誠に不甲斐ない思いと共に、イツダテのために速やかに団結いただき、感謝に絶えません。どうぞ、街の大通りをお進みください。我々の【主】が、この国の健全さを取り戻してくださるように」
「出迎えご苦労」
挨拶を返したのは、ハタジャの令主マゴだった。大柄な王はべへモットのように巨大な馬に跨っている。
「城門はどうなっている。城内は、どんな様子だ」
「城の正門は固く閉じており、内側から錠が下ろされているようです。城内は、恐ろしいほど静かでございます」
ハタジャ王は、隣のフェリックスと目を合わせた。フェリックスは後ろに向けて、剣を振り上げた。黒檀でできている木刀で、黒光りをして輝いた。隊は二つに割れ、後ろから大きな台車に乗った破城鎚が進み出てきた。
破城鎚の台車を挟むようにして、ハタジャとフェリツ王軍が分かれ、後ろにヨッパとジンニの王軍が続き、後ろに街々の長の隊が連なった。隊は街の大通りを行進した。
イツダテ城下の人々は、家どころか山までをも震わす行進を、窓という窓から見守った。声に出して王たちを讃えるものはなく、建国以来この街を知る者達も、初めての他国の大軍勢を目にした。
王たちは馬上にあり、帯刀していたが、軍服ではなく、王衣を纏っていた。帯刀にしても、フェリツ王軍が黒檀の木刀であるように、形ばかりの宝刀や王笏であった。これは、王軍の出現が、武力ではなく王権の行使を意味するからであった。王体を悪意で傷つける者は、即座に千年王国君主への叛逆となる。王たちは戦闘の必要がないのだ。しかし、今回のように未知なる事態に突入するときにあっては、事実上丸腰であることに、不安をまったく覚えないなど無理な相談であった。王たちはそれぞれ、内心に祈りと緊張を持って、それが行進をいっそう物々しくし、見守る人々をますます戦慄させるのだった。
ウィスターは医療団としてフェリツ隊の最後尾で、大型のポンパドーターに乗りあわせていた。行進に合わせて、歩調とさして変わらない車上から、イツダテの街並みを眺めることができた。窓から顔を出す人々には、「オイ」と思われる幼子がちらほら見受けられた。サリーの「オイ」が、なぜイツダテで見過ごされて来たのか疑問に思っていた。「オイ」は呪いの一種だが、「オイ」たからと言って必ず死に捕まるわけではない。ある種の生き方として、受け入れられる風潮があるのかもしれない。
やがてたどり着いた城門は、幅の狭いものであったが、高く、優美であった。門から左右に伸びる橙色の城壁の向こうには鬱蒼と樹々が立ち上がり、そのまた向こうの離れた山頂に、灰色の覆いに隠されたイツダテ城があった。
ハタジャ王マゴが儀礼的な口調で大きな声を出した。
「イツダテ城主、我々はハタジャ、フェリツ、ヨッパ、ジンニからなる兄妹王軍である。我々の【主】の御名により、開門を命ずる──城門を開かれよ」
マゴは型通りの文句を叫んだが、城内には全く人がいないか、ほとんど逃げ出していることは、前日までの監視でわかっていた。近郊の川港から、より大きな港に向けて小舟が出され、また南に向かって、荷物を積んだポンパドータートラックが何台も出ていた。シーダー社が保有しているかもしれない兵器のために、イツダテの街の長たちには、みだりに刺激しないように言い渡されていたので、シーダー社が鼻先を通り過ぎるのを見守るしかなかったのだ。
「開かなければ、打ち破る!」
王はもう一度叫び、やはりなんの返事もないことを確かめると、破城槌の勢いをつけ始めた。街中に、かつてないほどの破壊音が響き渡ると、木々に止まっていた鳥は一斉に飛び去った。人々は震え、身を寄せ合い、泣いた。
つづく






