第20章 イツダテの王は誇り高い/第5話 謀略|千年王国ファンタジー 幻想聖典エスキャトロギヤ

第5話 謀略

{奴らが、宮殿にやってきたのは、私が、十三歳くらいのときでした}

「奴ら、と言うのは?」ツユリが尋ねた。

{シーダーたちです}

「シー、ダー?」

 フェリックスは、はて、どこかで聞いた名だな、と思った。

「シーダー社のシーダーかな。サリーが務めていたというか、彼女はシーダーの妻なんだよな」

 ツユリは、ヤオからサリーに送った手紙や、護教師エフデから得た情報をもとに言った。

「え、結婚してたんだ」

 ヤオとフェリックスが呟くのは同時であった。

{初めは、ちょっとした偶然が重なったのです。当時、城内で飼っている猿だとか鳥だとかの世話をする者を探していて、ロー・ジがまず、宮殿仕えをするようになりました。彼は、動物生態の学者のところに出入りをしている者でした}

「ロー・ジは、シーダーの息子だね。そうか、彼は研究者となったのか」

 ツユリが頷いた。フェリックスが中断する。

「ちょっと、待って。では、サリーは夫がいて、子供もいたってことか」

「細かいところは端折るが、ロー・ジはシーダーの連れ子だ。ロー・ジ、シーダー、サリーはもともとエッケブレに住んでいたのを、ある時イツダテに移住したんだ」

{シーダーは、息子が王室に召し上げられたチャンスを逃さず、王宮の下水のドブ浚いから、光ダクトの補修まで、きつくて、汚くて、危険な仕事をなんでも引き受けて、だんだんと信用を勝ち取っていきました。今や、シーダー社といえば城の管理運営から、公務手配までを下請けする、イツダテでも有数の一流企業です}

 ツユリは、保守的なイツダテ王宮さえも、時代の波には勝てないのだなぁという感傷を胸に秘めつつ、たずねる。

「城の管理を外注に出すのはわかる。でも、聞いていた限り、シーダーはわりと粗野な、無頼漢という印象を受けた。その男がそこまで会社を成功させたのは、参謀的な存在があったのだろうか」

──やっぱり、サリーはぎらぎらした、ちょっと悪そうな男が好みなんだな。

 ヤオは思った。

 無頼漢、と言う形容をきいて、アミュテュスは笑った。

{シーダーには野心と、勢いがあった。気がまわらないところは、サリーが立ち回っていました。それに……シーダー社の頭脳、という意味でなら、ロー・ジがまさにそう……彼は自閉的な引きこもりですが、不思議な影響力があって、幼子でありながら、王たちにも一目置かれていました。王宮が持て余していた遺物を使いこなして、生活が便利になるような発明を連発して、イツダテの社会に組み込んで行ったのです。やりかたは、イツダテの歴史ある街並みを保存しながら、少ないヰェナダー光を最大限活用すべく、社会基盤を最先端の技術に組み換えていくものだったので、王族はおろか、政策立案者たちの賛意も、得やすかったのです}

 ツユリは、フェリツ城でルツ女王が「ロー・ジは天才だ」と言っていたことを思い出し、若者の能力の開花に納得した。

{シーダーたちは、メイ女王の治世に王宮に現れましたが、当時は出入りの業者の一つでしかありませんでした。現在の王に王権が移ったのち、彼らと王室は包括的に業務提携をして、以来、関係が続いています}

「彼らと、王室との間に贈収賄は」

 ツユリはあくまで念のために聞いたのだが、アミュテュスは鋭く王を見据えた。

{イツダテ王たちが、賄賂を受け取るとでも}

「いやあ、あいつらのこと、饅頭の下に金貨が忍ばせてあっても、知らずに一緒に口に入れて、うまいと噛みしだいているかもしらんな」

 フェリックスが茶化してくれたので、ツユリは失言めいたことが霧散して安心した。

「で、今まさに、城内はどのような状況なのだ」

{今、城は今}

 アミュテュスは、これを言ってしまえば、イツダテの情勢に高みの見物を決め込んできた怠慢を認めるようで、情けなさで涙が溢れた。

{シーダー社の者たちが、城の全面改修をすると言って、城に覆いをかけ、側仕えの者たちを全員外に出し、社員だけで、王たちのお世話をしております}

「そんな、自分の尻も満足に拭けないような……」

 フェリックスが息巻くのを、ツユリが制した。

「それは、イツダテでは普通なことなのか。今までにもあったことなのか」

{あるわけがないでしょう。栄光の王様たちのお世話を、給仕もままならない、民間人の手に委ねるなど……私たちはシーダーたちの三十年の忠信に信頼して、断腸の思いで任せたのです。納得ずくだったわけではありません。それもこれも、お城が、千年王国の終わりまで、安全で、快適な、王達のお住まいであってほしい願いから、受け入れたことです}

 言葉は捲し立てるようだったが、楽師が楽器を引きちぎる勢いでかき鳴らしたので、人々は境遇に同情しつつ、技巧に息を飲んだ。

 ツユリは持ち前の穏やかさを保つのに苦労する。

「ということは、場合によっては、至極緩慢な形での、クーデターか、立て籠もりが起こっている可能性もあるということだな」

{クーデター? イツダテ王たちが、シーダー社の者達と、千年王国君主に刃向かうというのですか?}

 王はしっかりと首を振る。

「それは違う。シーダー社が、イツダテ王達を閉じ込めていると考える」

 アミュテュスはまだ疑いを含んだ視線を送った。

「王達は、我々の君主に信仰を認められた、復活の聖徒達だ。君主への冒涜など、ありえない。絶対に」

 ツユリは珍しく厳しい目をした。王たちが裏切ることはありえない。しかし、不死であり、超人的な能力を持つ栄光の王を、どうやって四ヶ月も閉じ込められるのか。こう言った時に次に起こりそうな、身代金の要求や、人質解放の交換条件が提示されていないのは何故か、新しい疑問がわいてきた。

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