千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第13章 ダイモニゾマイ
第3話 王族
襲撃者は鎮静剤で眠りにつき、顔や孔は洗浄された。
鼻の突起のあるべき部分が涙型の穴になっており、顔の内側に向かって鼻が引っ込んだように、金属製の機器が埋め込まれていた。機器には小さな穴が並んでいた。
剃られた頭は、わずかに毛が生えつつあった。表面のあらゆる部分に真新しい縫合跡があり、中に何かを埋め込んだのか、ヤオの頭突きで潰れたところ以外にも、不自然な盛り上がりがあった。
医務室は医療の研究室も兼ねていて、側廊のように横長だった。細長い窓が連なり、南東向きで、ガラスからは晴れ始めた朝の空の、黄色い陽が淡く差しこんでいた。天井は高く、ヴォールトの頂点から下に菅が伸び、シーリングファンが等間隔に並んで、静かにくるくると回っていた。
早朝に叩き起こされた医者たちと、ウィスター、襲撃時にいた警備員スグルとゴヤがいた。医者団は、起きぬけにこの憂鬱な患者を診ることになって黙りこくっていた。
やがて、付き人に包みを持たせ、ヤオを引き連れた王族のツユリが入ってきた。頭を短く刈り上げて、毛は赤茶色だった。無精髭があったが、瞳はごく穏やかだった。全身を覆う深緑色の長い衣を着ていて、腰を縄で結え、サンダル履きだった。王というよりは、僧を思わせた。
ツユリは別の空いてる診察台の上に、ごく軽そうな包みを置かせ、小さくため息をつくと、医師たちを見た。
「だいたいの顛末は聞いた。フェリックスは、ヤオ氏、ウィスター氏を伴って、イツダテに関する情報収集に、菌魂転送を用いて手掛かりを得ようとしていた。王は昨日の臥、正体不明の女性を捕らえて、彼女は客室を逃げ出した。逃げた先に、君たちがいて」
ツユリはウィスターとヤオを見て、二人が頷くのを待った。
「そこへ、この者と」
改造人間に目を落としたツユリは眉をひそめずにはいられなかった。すぐに表情を消してさっと顔を上げた。
「謎の騎士が現れ、襲撃を受けた。騎士は攻撃には参加せず、男との戦闘の混乱に乗じて消えた」
ツユリは顎の髭を撫でた。
「確認だが、敵は、フェリックスが捕えた女を、狙ったんだね? 彼女は、また逃げてしまったが」
あの場にいたスグルとゴヤ、ヤオとウィスターは頷いた。
「で、肝心の……」
ツユリが、持ってきた包に視線を落とそうとしたその時、外の廊下に怒号が響いた。
──フェリックス!
まだ姿の見えないうちから、大きな声が叱責を捲し立て、のしのしと足音が近づいてくる。
──貴様、私の断りもなく、転送術を使ったな!
地鳴りがし、シーリングファンが揺れ、医務室の薬棚がカタカタと震える。ツユリは、天を仰いで、口元で何事かを唱えた。その仕草は王に染みついた癖を感じさせた。
「ウィスター、ヤオ、令主の、ルツだ」
まだ姿の見えないうちから、ツユリは医務室の戸口を紹介した。警備がさっと扉を開いた。皆、怒れる女が登場することを覚悟した。
期待に反して、扉の横の壁から、大女が迫り出した。音もなく、水から人が浮き上がる時のような抵抗もなかった。
女は巨大だった。扉がもう一枚できたのかというほど、いやそれ以上だ。警備が扉を開いたのは、形ばかり儀礼を示すためだろう。髪をぴったり結い上げて、首は顔面と同じほど太いのだった。フェリツ国第十七期最高統治者のルツ令主だ。
女王に比べれば、長身のヤオでさえ蚊のようだ。ヤオは、長い背を折って低頭した。
ウィスターが女王をじかに見たのは五十年前、戴冠式以来で、人が多すぎて、遠目にちらりとしか見られなかった。
──うわ、本当に牛、いやべへモットそのものだ。
それから何度も新聞に登場していたものの、巨体のために、たいがい写真の枠に収まりきらず、彼女を収めようとすると他の人が切れたり、小さくなりすぎてしまうので、独立したポートレート……しかも肩から上だけが掲載されることが多かった。
つづく






