千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第11章 フェリツ城
第6話 沈黙
「まずお伝えするべきことは、あの人は栄化体じゃない。幼子〔おさなご〕ですね。まだ」
ウィスター医師が言った。
フェリックスとウィスターは、大ホールの傍にある、小さな黙祷室に入り、扉を閉め切った。部屋には小さな窓と、ベンチと、書見のために傾斜のついた机以外は何もなかった。フェリックスはだいたいの予想はしていたものの、こころが沈んだ。なにかしら重大なことに、幼子が巻き込まれるのはいいことではない。
「年齢は?」
「三十から、行って七十ってところでしょうか」
「自分では言わないのか?」
「だんまりですね」
フェリックスは鼻からふうと息を吹きだした。
「強情だな」
「……というよりは、おそらく、しゃべれないです」
「生まれながらに? それか、そのような処置を?」
女が機器を持ち去ろうとしたので、特殊工作員である可能性があった。
「処置ではないと思います。生まれながらか、何かの病気と思った方が」
「名前のわかるものは?」
「持っていませんでした」
「彼女はおそらく、南部の、イツダテ人と見受けるが、どう思う?」
「私は人種にはうとくて。でも、あのような目鼻立ちで、肌の色の浅黒いのは、イツダテ人かもですね。でも、フェリツに在住しているイツダテ人かもしれないですし」
フェリックスは歯痒くなって、指どうしをこすり合わせた。
──捕まえたはいいが、女から得られる情報が少なすぎる。こんなことなら、国境を越えたイツダテ王宮の者の特徴を、詳細に聞いておけばよかった。明日、というか今日、朝一番で国境と伝信するか。今日は何日だ? 九月二十八日! 俄庵の祭りが始まるまで、あと二週間を切ってしまった。祭りの終わり……礼拝の期日まで、あと二十日もない。女を聴取しようにも、言葉のない者に、どれだけのことができるのか。あの機器を、女が狙っていたことで、護教師らしき女の重要性も高まったが。機器については、精密さから言って、我が国でどこまでの検証が可能だろうか。機器とイツダテ王宮との関連性が高いとは言えないかもしれない。せめて、死んだ女が生きてさえいれば。いや、死んだからこそ、あの機器が見つかったわけなんだが。せめてもう少し、確たる事実があればいいのに──。
「いや、そうだ。兄だ」
フェリックスは呟き、部屋を出ようとベンチを立った。
「あと!」
ウィスターはこれで最後とばかりに、王を引き留めた。
「これは、大したことではないと思うのですが、私とあなたとの間に、とどめたいことがあります。少なくとも、今は」
つづく






