千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第8章 老い
光と影の明滅の中を走っていたポンパドータ―は、突然闇の世界に突入した。太陽はどこにもない。目の前のわずかな距離を、車体の前の発光体が照らしている。道は白い石畳ではなく、黒い。両脇と中央に白線が引いてあり、左半分を走っている。道脇は空よりも黒い、森だ。木々は立ち枯れている。ライトで照らし出された木肌が白く浮かび上がって、よけいに生気がない。
前へ前へ、逃げるように走る。バイクの走行音で、死が行き渡りつつある世界の呻きをかき消しながら。
なんだかみぞおちが苦しいなと思ったら、腕が巻き付いている。そうだ。一緒に来たんだ……誰と?
「見て! 星がすごい!」
後ろの女はヘルメットと走行音の向こうで力一杯叫ぶ。
前に注意を向けつつ、ちょっと上を見る。どうりで森がやたらと暗く感じるんだ。空にはたくさんの星々が散らばって、闇にミルクを溶かし込むように、夜空をなめらかにしていた。
闇が明けたんだ。へんな言い方だけれど。太陽はおろか、月も星もない闇の時間が明けて、夜になった。
「ちょっと、停まって、見ようよ」女は言った。
だめだ。それはだめだ。君の願いは、これまで何度も聞いてきたが、今回ばかりは、そうもいかないんだ。
左手をハンドルからはずし、彼女の手にそっと添えた。男の手を。
また運転に戻った。彼女は、停まればそこにあるのは耳が塞がったような静寂と、星たちの笑い声だと思っているんだろうが、おそらくは、森の悲鳴と、追い縋る死の恐怖で、星なんて見たいと願わなければよかったという、生の呪いに取り憑かれるのだ。
走りながら待っていた。東の空が白く明け始めるのを。地平線は森に隠れて、星の明るい夜だから、すぐにでも夜が明けそうな期待にくじけそうになる。でも、じれったいほど、時間は速度に反して後退していくように感じる。
彼女と共にバイクと一体化して凍りついたように走り続けた。やっと、待ちに待った、朝日の気配が空の向こうに浮かび上がった。光の中に飛び込むように、スピードを上げた。
第3話 闇明 おわり






