千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第18章 活海
第3話 集結
ヤオは目線より下の王に失礼があってはいけない慎みと、一刻も早く冷たい水中から助け出したい焦りと、婦人と王の裸体との間で、どう振る舞っていいかわからず、外套を上下左右した。
「大公、おからだに障ります。まずは水から上がって、いや、じゃ、ウィスター、ちょっと向こうに」
ウィスターの後に続いたアミュテュスも、彼らが大いにたじろいではいるものの、さしたる危険がなさそうなのと、視線が低く、水が波紋を打っているので、ガチョウでも迷い込んでいるのかと思った。
しかし待て、ガチョウはしゃべったりしない……そう思うのと、柱の向こうをひょいと覗き込むのとは同時であった。
ヤオの足元に、男がびしょ濡れで肩だけ出しているので、反射的に竦み上がった。よく見るとそれは、数日前の臥に相対したフェリックス王ではないか。
「おや……まさか姫までいるとは。まったく展開が読めぬ。説明しろ、少年」
王は己の状況を全く意に介していない。
「はい。しかしどうか水から上がってください。山の水は冷たいでしょう」
「山か。ではここはやはり、演習林地下の貯水槽か」
「ご明察にございます」
「どうりで、気持ちの高揚が抑えられんわけだ」
フェリックスはさっき失敗した音程の上がる節を、今度は鼻歌で歌いながら、足をばたばたとうごかした。すると何も身につけてない尻が浮かんできた。ウィスターは自らとアミュテュスの目の前にタオルをぴんと張って目隠しをした。ヤオも上着で視界を覆った。
「たた大公、ご婦人がたの前ですから」
「何を少年、私は恥ずかしくなどないぞ」
「もちろんでしょうとも。いやいかに栄光のお姿といっても、むやみに晒されては、愚民共のほうが、目のやり場に困りますので」
フェリックスはふんと言って足をばたつかせるのをやめ、またふわふわと水中に下半身を落とした。これしきの裸で驚かれるとは心外だ。やはり演習林の者といえど、「実験」に巻き込むのは説得が容易ではなさそうだ、と思いながら、ざばっと水から上がった。しかしその時には、果たして何の実験のことを考えていたのだったか……確か裸がどうのとかいったものだったが……と、通路に腰をかけて、膝から下は水に浸したままで思考を反芻させた。
その隙にヤオは上着をフェリックスの肩にかけ、タオルをウィスターから受け取った。タオルを差し出しても、王は物思いにとらわれているようだった。
「大公」
「おお、ありがとう」
フェリックスはタオルを受け取り、そのまま眉を寄せて、何かを捻り出そうとうつむいた。
「うーん、わからない、降参だ。なんで、君と、ウィスターと、あのとき、脳を握りしめていた姫が、今三人でいて、こんなところで、我々が会うことになったのか」
フェリックスの頭からぽたぽた水滴が落ちているのがどうにも気になる。ヤオは王の手からタオルを奪い、頭を拭いた。
ウィスターは、アミュテュスを王から離れた隣の柱まで連れて行き、フェリックスに何を話すべきかを相談した。
「あの方はいつも、変なタイミングでお出ましになるわね」
アミュテュスは自身を指し、指で走り去るジェスチャーをした。
「一人でここから逃げるってこと?」
ウィスターはアミュテュスの肩に手を置き、厳しい顔で首を横に振った。
「殿下はあんなかんじだけど、話してわからない人じゃないと思うの」
アミュテュスは、ウィスターの手を強く握った。フェリツ人にとっては保護者であっても、他国人に対してはどこまでも冷酷かもしれないのだ。
「わかってるわ。あなたの目的は、とにかくヰェナダーに行くことよね」
つづく






