千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第11章 フェリツ城
第5話 城内
雨は止み、臥の霧が濃く出始めた。空はヰェナダー光を乱反射させて真っ白になった。
ヤオは、フェリシティの警察署に向かっているのだろうと思っていたのに、馬車は街をすり抜け、ついには城に到着した。それでもまだ、城の中に警察署のような機能があるのだろうと思っていた。
フェリツ城は、おとぎ話に出てくるような堅牢そうな石造りの城ではなかった。霧の中で城のシルエットが浮かび上がる様子は、いろいろな大樹が寄り集まって、大地に立ち上がるようなのだった。樫の木やナラというよりも、ポプラや糸杉のような、すらりと伸びた樹木の群生のようだった。
近づいてみると、木材や金属、石とガラスが複雑に組み合わさり、巨大化した草花の下に、小さな虫になって迷い込んだようだった。壁に真っ直ぐなところが少なく、斜めにかしいだり、緩くカーブを描いたり、波打ったりしていた。
時刻はすでに深臥零時になっていた。
馬車の中で束の間の仮眠をとったフェリックスは、城の前で下車するなり、別の馬車から降りてきたウィスターを掴まえた。
「すまない、終わったら、休ませるから、まず、済ませて欲しいことがある」
城の者たちは、警備やわずかの側仕えの他は寝静まっていた。ウィスターは、女性の従者2人と共に、捕らわれた女と別室に移った。
フェリックスは警察官たちと短く打ち合わせをして解散させた。ウィスターの戻りを待つ間、しつこくまとわりつく疲労感を紛らわすために、珍客をもてなすことにした。
青年は、城の玄関ホールを抜けたところにある大ホールに並ぶ柱の、見上げても見上げきれないほどの高さと太さに目を奪われ、天を仰いだまま、我知らずその場でゆっくりと回っている。
「森のようです」
フェリックスは、茶の用意が来ると、つるつるした石の床に無造作に投げ出してある、大きなかたまりに腰を下ろした。椅子やソファというには団子のように丸い布のかたまりだった。
「森、か。君は演習林の者だったな」
「はい、演習林の……お初にお目にかかります。レヘム村の、オルククの子、ミモスの子、ヤオです」
同じ言い回しをどこかで聞いたことがある気がする──。
「──もし?」
青年の声がした。思考に潜ると、やすやす寝てしまう。
「……それはご苦労だったな、オルククよ」
「ヤオです」
「ヤオ。楽にしてよい。そのへんのクッションを使え」
ヤオ青年は、クッションと呼ばれるには大きすぎる布のかたまりを引っ張り、男がするように、恐々腰をかけた。中には蕎麦殻のようなものが詰まっていて、ある程度沈み込むと生地の中で詰め物が絞まり、腰と背中が包まれる。かたまりを恐々撫でている。フェリックスはその様子を昆虫を観察するように見た。
「雨の中、演習林からフェリシティは、難儀だっただろう」
「いえ、どうというほどでは。あの、無礼ながら、ご主人様の、ご尊名を、拝させていただけますでしょうか」
「私か? 私は──」
フェリックスはもったいぶった。この慇懃な青年に、どう自己紹介したら、最も面白い反応が得られるだろうか。
「殿下──」
しかし、ちょうど割り込みがあった。
従者がウィスターと現れたので、フェリックスは立ち上がった。
「ウィスター医師、手間をかけたな」
「殿下、恐れながら。ええと。二人で話してもいいですか」
ウィスター医師は大袈裟にへりくだる物言いに慣れていないようで、最後は簡単にした。
──ヤオは、周りが男のことをでんか、でんか、と呼ぶわりに、さほど丁重には扱われていないようなので、政治関係の偉い人で、警察署長ではなかったのかしらと思いつつ、かの女の姿を探した。もうどこかに引っ込められてしまったようだった。






