千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第9章 けがれている!けがれている!
ヤオは、マロニエがハンと保冷庫を取りに行き、流石に王都まで人が引いていくのはきついだろうということで、機器を馬に繋げて戻ってくるまで、サリーが目を覚ますのを待った。そばにいるほど、人の死も、動物のそれと同じで、眠っていることとは根本的に違う、ということが呑み込めてきた。サリーを連れて王都まで行くと言い出したのも、もしかしたら道すがら息を吹き返すのではという期待があったためだった。でも、刻一刻と失望に塗り替えられていった。
サリーの体を外に運び出し、保冷庫に収め、蓋を閉めた。見たところは、マロニエ自慢のスムージースタンドとなんら変わりない。大人たちはたじろいだ。
これを引いて歩いていたら、何も知らない人々が、スムージーの行商だと思って、寄ってきはしないだろうか?
白い保冷庫をしげしげと眺めるヤオから不安が伝わったのか、ハンが言った。「おい、人が近づいて来たら、『けがれている! けがれている!』って叫んで、人が、入れ物に、触れないようにするんだぞ。死には、汚〔けが〕れがあるから」
マロニエは、何か言いたげにハンを見た。ハンはつけ足した。
「サリーが汚いとかって、意味じゃないぞ、死が、そういうもんだってことだ」
ヤオは、そんな、因習的な作法にどれだけの意味があるのかとか、マロニエが気前よく貸してくれた保冷庫は、今後またしれっと野菜や果物を運ぶようになるのかとか、ちょっと考えてから歩き出したかった。しかし彼の社交の外殻をなす慎重さが、ここに至ってまるで役に立たないのだ。
確かに、普段死人など見ることのない人々が、マロニエのスムージーを求めて、わらわらと寄って来たら、言い訳をする気力は、今はない。汚〔けが〕れているでもなんでも、叫んでみんなが遠巻きにしてくれるならば、それが最善なのかもしれない。
ヤオはここまで手を貸してくれた友に頷いた。ハンにしたって、「汚れ」とわかっていながら、死体を持ち、運んでくれたのだ。
マロニエが弱く機械を作動させた。保冷庫から伸びるガラス管が震えて、動き出した。
「今日は一日曇りみたいだから、どこかで動力が止まるかもしれないけど、保冷力があるから、心配ないと思うわ」
サリーのためか、愛機のためか、機器をそっと撫でた。
「こんなことになって……」
あとはもう出発するだけだと見てとって、オルククは力なく地面にへたり込んだ。ハンが樹木医の肩に手を置いてうなだれ、物理的に痛そうに目をぎゅっと絞って泣いた。二人はひとかたまりになって痛みを分かち合った。
マロニエはその場を夫に任せ、ヤオが挫けて歩を弱めないように、一緒に歩き出した。
第2話 葬送 おわり






