第8章 老い/第1話 草隠|千年王国ファンタジー 幻想聖典エスキャトロギヤ

第1話 草隠

 草むらにしゃがんで、目をこらす。

──いた。

 そっと近づく。頭を空っぽにして、興味がなさそうにして、手で包み込むのがこつだ。

──ほら、捕まえた。

 草の青さとほとんど変わらない小さなバッタだった。脇に下げた柳の虫籠に入れた。もういっぱいバッタが入っている。なのに、何も入っていないみたいに軽い。みんな、新入りが入ってくると、はたはた、おろおろと小さな箱の中を彷徨ったが、じきにそれぞれの場所に落ち着いた。

 周りを見る。さっきまでいた母さんがいない。

 少し向こうの草むらの間に、父さんの頭が見えた。母さんの笑い声もする。籠を手に持ち、そばに寄る。

「見て! たくさんいるよ!」

 父さんはびっくりして身を起こした。その下から、母さんが顔を出した。二人とも表情がそっくりだ。立ちすくむ。近づいてはいけない気がする。

 父さんが言う。

「虫を捕まえたのかい?」

 持っていた籠が空っぽになったように感じる。父が母に向け、母が父に求めているほどには、サリーの持っているものは取るに足りないのだ。

 曲がりなりにも分別のある年長者の二人は、サリーの落胆を見て同情した。互いを温めあっていたので、味方のいる心強さがあった。娘をこっちに呼んで、二人の間にできた温度のさなかに招いてやろうと思った。

「サ……」

「サリー、おいで」

 呼んだのは彼らの息子の声だった。

 木々の間から、藪をかき分けて大きなバッタが現れた。頭は茶色いバッタだったが、ほかは人間だった。サリーは迷うことなく兄に駆け寄った。

「こんなに採ったのか。窮屈そうだね」

「軽いよ?」

「軽いんだね。虫だから」

 バッタは屈み、カゴの中のバッタ達を見た後、目線の上の草むらに、父がぽかんとした顔でいることに気がついた。脚を伸ばしてさらに視界が開けると、案の定、その下には肘をついて半身を起こした母がいた。

 母親は「私たちが預かってもいいし、二人で遊ぶのでもいいわ」というようなことを伝えるために、さらに体を起こして軽く両手を差し出した。しかし、その不安定な姿勢を押し流すほど強い風が吹いて、地面に手をつき、再び目を上げた時には、バッタはサリーを抱え上げていた。

「もう少し大きな籠を作るよ」

 声は親たちに向けられた。抱いたサリーを振り回して喜ばせながら、森の中に入っていった。

 サリーの視界から親たちが隠れる間際に、母は、父の頬に触れて、キスをした。

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