千年王国ファンタジー|幻想聖典 エスキャトロギヤ 第6章 ヨシャパテ条約
結論から言おう。開通式は【救い主】の十字架上の苦悶の六時間と見紛うほどに、黒々と沈んだ空気の中、しめやかに執り行われた。
「どくろの丘」に第四の囚人がいたとしたら、それは私だろう。
それもこれも、時を同じくして締結されたヰェナダーでの「ヨシャパテ条約」にある。名称も内容も、ストイックな世界条約である。これというのは、各国における遺物の毎月の採掘量、輸出量を把握し、上限を定めるというもので、イツダテをはじめとした遺物を多く抱える国々が、当初見込んでいた収益の五分の一ほどに規制がかかるものだった。
エッケブレにも遺構が野晒しになった「枯れ骨」と呼ばれる土地があり、ヰェナダーはこの土地を違法採掘者から守るための派遣団……のちに御教団と名付けられた……すら組織されるという徹底ぶりだ。これはかの地がイツダテよりもさらに辺鄙な地にあるからで、まがりなりに優等生で通っていたイツダテは、御教団の派遣を免れた。
平凡な市民たちにしてみればゴミないしは文明の墓場同然でありつつ、見る人が見れば宝の山でもあるという、微妙なバランスの上にこの大地が成り立っているのを思い知らされた。
国益安定を建前として、そろばんを叩いていたイツダテの商人組合やエッケブレの漁業連盟はあからさまに失望し、王族を焚き付けて計画の立案者であるフェリツ、つまりは私に集中砲火を浴びせた。
開通式は一転して謝罪会見となったのである。
エッケブレはいらん堅物がヰェナダーからやってくると煙たがるし、イツダテは国民に慕われているメイ女王をひっつかまえて、条約締結までの進捗を追い、道路工事計画にからむ便宜をはかる責任はフェリツ、つまりは私にあったはずだと言い出すしまつである。
君たちだって【主】の前に責任ある国家だろと言いたい。言いたいが、イツダテのメイ女王の、見た目だけは年端もいかぬなりで切々と国民の嘆願を代弁されては、見た目だけは大人の私がなおさら子供を苛めているような図式になる。
百歩譲って、私に非があるとしよう。道路建設の各段階で、ヰェナダー駐在員からヨシャパテ論争について報告は受けていた。
「フェリツとしてなにか言うべきことはないですか? 弓大陸会合で、議題に上げなくていいですか?」と、再三、再四、進言されていたにも関わらず、フェリツの遺物採掘と利用量がさほどでもないのをいいことに、取り合わなかった。工事が順調なのに浮かれて、面倒な議論を他人任せにしたのである。
しかし、しかしだ。道路計画は確かに口火を切ったにせよ、なんでもフェリツが先陣を切ってくれるとばかりに、ヰェナダーでの議論を素通りしてきた各国の責任だって忘れてはいけないはずだ。フェリツ駐在員も駐在員だ。私は彼らを信頼してこそ、役割にうるさく口を出さず見守ってきたのである。(なのでせめて、多くの当事者についてここには名前は残さない。私的な日記にはしっかりと書き留めてある)
青くなったり赤くなったりするほど大事な議論ならば、私の頬っつらを引っ叩き、王服を引きずって、議会で二人羽織をしてでも手を上げさせればよかったのだ。たかが初代、そして二冠の私なんぞにいらぬ遠慮をしやがって。みんな私任せか。当事者意識のある奴はおらんのか。情けない。誰だ、ポンパドーターなんて、ふざけた名前をつけたのは──。
つづく






